一つ先の標準 〜未来を少しよい方に〜

【講演ボランティア・現役消防職員・防災士】危機管理・防災・パフォーマンス向上など

【資料】破壊消防

執筆者:現役消防職員(消防隊長・人事マネージャー歴任)|非常時の経験を日常に活かす防災知識を発信中

 

水が足りなければ建物を壊してでも火を止める。江戸時代の驚くべき知恵「破壊消防」戦術から、現代の山林火災や都市計画に受け継がれる「可燃物除去」の有用性を紐解きます。

消防の歴史|破壊消防―江戸の町を守った可燃物除去の合理的戦略

【消防の現場視点で、まず結論をお伝えします】

消火といえば水をかけるのが普通ですが、「燃えるものを取り除く」ことも有効な延焼阻止手段です。江戸時代の町火消たちが命懸けで行った破壊消防は理にかなった戦術でした。火の通り道を遮断する考え方は、現代の山火事対策や都市の防火帯形成にも形を変えて生き続けています。

 

火は可燃物・酸素・熱源の三要素が揃ってはじめて燃えます。

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このうちどれか一つを断てば、燃焼は止まります。

現代の消防では主に冷却(水による放水)や窒息(酸素を遮断)が使われますが、江戸時代の消防は燃えるものを除去するという方法に重きを置いていました。

これが、いわゆる破壊消防の原点です。

 


1. 江戸の密集家屋と水不足のジレンマ

当時の江戸は世界屈指の人口密度を誇る、木と紙でできた町でした。

家屋は密集し、ひとたび火が出れば瞬く間に燃え広がります。

しかも、当時の消火用水は乏しく、火元まで届くような強力な放水設備もありませんでした。

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水を使っても焼け石に水、大火と呼ばれる火災に何度も見舞われてきました。

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2. 「燃える道」を断つ究極の延焼阻止

そこで編み出されたのが、火の勢いを止めるために、あえて建物を壊すという発想です。

これが江戸の消防における「火除け(ひよけ)」の考え方でした。

消防防災博物館より


町火消たちが延焼方向を見極め、燃え広がる前に家屋を壊して燃える道を断ちました。

燃焼の三要素のうち可燃物を取り除くことで、火の進行を物理的に止めるという、非常に理にかなった方法です。

中濃消防組合より


延焼を止めるために壊される家は破壊家と呼ばれ、そこに住む人々も町を守るためならと覚悟を持っていたといわれます。

被害を最小限にとどめるための犠牲とともに火と向き合う防災の姿勢がありました。

 


3. 現代に息づく破壊消防のDNA

現代の消防戦術で家屋を破壊することはありませんが、山林火災で延焼阻止線を定めて炎の進行方向の木々をチェーンソーで伐採するといった手段は今も用いられる破壊消防の一種です。

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また、都市計画において大火を防ぐために幅員の広い道路や公園の配置による防火帯を設定するのも、可燃物の排除という点で似た考え方です。これらはすべて、江戸の知恵が形を変えて現代の安全を支えている例と言えるでしょう。

 

【まとめ】
破壊消防は、限られた資源の中で最大の防御効果を得るための知恵でした。燃焼の三要素から可燃物を物理的に排除するという戦略は、現代の山林火災や防火帯といった都市計画にも通ずる原理です。先人たちの町全体を守るための思いは、現代の活動の礎となっています。


執筆者
現役消防職員・hyakk

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hyakk(30代・現役消防職員・防災士)