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【講演ボランティア・現役消防職員・防災士】危機管理・防災・パフォーマンス向上など

救急医療の危機③~心臓が止まるとき~

この記事は「救急医療の危機とは?」における要点整理記事です。

完全版は、以下の記事に集約しています。

▶ 救急医療の危機と「命を救うAED」の真実

 


 

執筆者:現役消防職員(消防隊長歴任)|非常時の経験を日常に活かす防災知識を発信中

 

前回は、心停止からの蘇生の実態についてお伝えしました。

今回は引き続き、心停止原因別の救命に関する考察とAEDについてお伝えします。

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みなさんも理科の授業で学んだ覚えがあるかもしれません。

心臓の筋肉(心筋)はいわゆる他の筋肉(骨格筋)と異なる性質があります。

例えば、連続運動を行っても疲労により機能が低下しない、意図的に動かすことができない、などの特徴を持っています。

 

これは「疲れたから」と心筋が機能を停止してしまうと直ちに命の危機につながるため、順当な進化の結果と言えます。

しかし、それでも心臓が停止に至る原因は何なのか。 次のデータから実態を読み解きたいと思います。

 

東京消防庁より

 

この図は、原因別(推定)の心停止による救急搬送人数です。大きく心原性(=心臓に原因がある)とそれ以外の原因に分けられています。

この中で割合の大きい「除外診断心原性」とは、老衰や原因が特定できない心停止を指しています。

「その他の内因性」は、呼吸器系や消化器系の疾患によるものを指しています。

併せて次の図もご覧ください。

東京消防庁より

 

こちらは原因別の心拍再開率です。

まず前提として、この統計における心停止に至った事例のうち3/4程度 (77.2%)は65歳以上の高齢者です。

そのため、不慮の事故に比べて疾病に起因するケースが多くを占めています。

 

それでは、この資料から読み取れることをいくつか解説します。

原因別の救命率の高さでは「脳血管障害」「心原性確定」「アナフィラキシー」「窒息」の順となっています。

「脳血管障害」「心原性確定」の救命率の高さには、前回触れた高い目撃率が貢献していると考えられます。

特に原因が心原性と確定する経緯には、AEDの使用が大きく関わっていますので、次回の記事で改めてご説明したいと思います。

 

「アナフィラキシー」は食物や蜂毒によるアレルギー反応で知られますが、心停止に至る件数が年間4件と少ないことがわかります。

「窒息」は食物を喉に詰まらせるなどにより発生しますが、窒息に至る原因(食物など)を除去できれば、劇的に症状が改善することがわかっています。


最後に参考として「悪性腫瘍」を下回って最も救命率が低い「溺水」について触れます。

溺水は河川などで溺れるケースもありますが、実は自宅の浴室で発生する事故が多数を占めます。

下の表から「水難事故」の年齢別搬送人員を確認すると、78.0%が65歳以上の高齢者で、事故の66.8%は自宅で発生しています。

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そして前述の資料から、他の要因と比べて目撃率が極めて低いことがわかります。

なお、浴室で溺れて一晩中発見されなかったようなケースは、病院へ搬送されず、統計には計上されないため、潜在的に溺水の致死率はさらに高いと考えられます。

 

東京消防庁より

※「溺水」=「水難事故」ではないため件数は一致しない。

 

全体を通して見ると、心停止からの心拍再開率は10.5%と極めて険しい道だと言えます。

次回は、その中に差し込む光明である「AED」についてお伝えします。

 


執筆者
現役消防職員・hyakk(30代)

現場の最前線で培った「命を守る知恵」を、日常に活かせる形でお伝えしています。 自治体、企業、学校等でのボランティア講演(首都圏内)も承っております。

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このサイトの運営者・執筆責任者

hyakk(30代・現役消防職員・防災士)