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【徹底解説】ホテル・ニュージャパン火災|ずさんな防火管理と経営責任が招いた悲劇

ホテル・ニュージャパン火災の教訓|ずさんな防火管理と経営責任が招いた悲劇

 

過去記事では宿泊施設の特殊性に由来する危険について言及しました。

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ここでは数あるホテル災害の中でも大きな被害が出た、ホテル・ニュージャパンでの火災被害とここから読み取れる事実をまとめていきます。


ホテル・ニュージャパン昭和35年に開業以来、東京都千代田区永田町に立地していた大規模ホテルです。

10階建てで室数は513室、国会議事堂にほど近く、当時から言わずと知れた都心の一等地でした。

近隣には各国大使館も多く所在していたことから、インバウンドという言葉が盛んに用いられるはるか前から外国人を含めた多くの宿泊者を受け入れてきました。


ただ、昭和50年代には運営親会社の苦しい経営の中で持株処分からの経営権変更、新社長の就任という出来事がありました。

表向きは都心の一流ホテルの顔を持つ一方で、昭和50年代中頃には引き続く経営不振の末に30億円もの累積赤字を抱えており、極端な支出の抑制など緊縮財政が敷かれている状況…。

そんなこの地で世間を揺るがす大災害が発生したのは、昭和 57年(1982年)2月8日の未明でした。


真冬の氷点下、乾燥した気候のもとで、ホテル9階の宿泊客の寝たばこにより出火し、9~10階部分を中心に100室以上に延焼、4,000㎡以上を焼いて鎮火しました。

この火災では32名(外国籍22名)が亡くなり、34名の傷者が発生しています。

本件が取り上げて報じられたのは、その被害の大きさもさることながら、宿泊施設での災害の恐ろしさが浮き彫りにされたためでした。


宿泊施設は不特定多数の人々が寝泊まりするという特殊性から危険な施設であるという点は過去の記事で取り上げました。

参考:ホテルの危険~無人施設が増殖中~

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そのため一般の建物と比して防火設備のハード面の堅牢さとスタッフの対応力の高さというソフト面で安全性を担保することが期待されています。

しかし、この災害ではソフト・ハード両面の幾重もの不備によって被害が大幅に拡大し、戦後最大級の宿泊施設火災となってしまいました。


火災発見から初動対応

第1発見者は仮眠に向かうフロント係員でした。

3時15分頃(推定出火時刻の1分前)に9階廊下で客室から白煙が出ているのを見つけたため、エレベーターで1階に移動してフロントに報告しています。


フロント係員からの報告を受けて駆け付けたスタッフ2名が客室から 「Fire! Helpme!」という声を聞いたため、マスターキーでドアを開けて炎を確認しました。

それから、初期の消火活動として付近の消火器を持って火を消し止めようとしたものの失敗しました。

別の消火器を探したものの発見できずに延焼が拡大して断念しています。


また、ほかのスタッフが屋内消火栓設備による消火を試みたものの、取扱いに習熟していなかったためホースを延ばせず、こちらも結果的に活用できませんでした。

関連記事:非常時に役立つ設備①~屋内消火栓設備~

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スタッフは火災を宿泊客に知らせなければと感じて、9階の各部屋にノックして回ったものの、大きな声で触れ回ることをためらってしまいました。

これは経営者が日頃から失敗を厳しく叱責するといった態度をとっていることを受けて、この火災がぼや程度だった場合に事を荒立てたことを叱責されるのではと委縮し、消極的な行動となったものです。

関連記事:心理的安全性を阻害する態度

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続いて3時22分頃には別棟警備室の自動火災報知設備受信機のベルが鳴動し、同室の警備員も火災発生を確認しています。

関連記事:非常時に役立つ設備②~自動火災報知設備~

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ただ、本館防災センターのベルは配線不良により鳴動せず、各階に設置された非常ベルは(手動方式に改造されており)操作されなかったために鳴動していません。

また、警備員による火災通報は行われませんでした。


結局、火災の通報は出火から20分以上が経過した3時39分でした。

第1通報者は付近通行人が公衆電話でホテルの4~5階が火事だと通報しています。

ほぼ時を同じくして近隣居住者からの第2通報、さらに遅れてホテルフロントからの第3通報も行われています。


一般的に火災の通報は出火からの時間が経過すればするほど延焼が拡大してしまいます。

したがって、発見が遅れる深夜の火災は被害が大きくなりがちです。

本件は幸いにもスタッフと警備員が異なるルートで出火直後に火災を認知していたものの、即座の通報がなされなかったことが被害拡大の要因となってしまいました。


延焼の拡大

火災の原因や経過は鎮火後に消防(場合によっては警察も合同)の調査によって追究されます。

この火災では100室以上の客室が熾烈な炎により焼けていたものの、避難したスタッフの証言から火元室の特定は容易でした。


ここに宿泊していたのはイギリス人の男性ビジネスマンでした。

飲酒酩酊した状態で寝たばこが不始末となりベッドに着火、そこから壁面、天井面へと伝って廊下の天井裏へと延焼が拡大していきました。


実はこのような延焼は特異なことで、本来であれば客室間や客室と廊下の間でコンクリートなどの不燃材により、燃え広がることがないような構造とすることが求められています。

しかし、この建物ではコンクリートで埋める 「壁」であるべき部分が「穴」になっている箇所が数百も存在しました。

これは配管工事の不良により埋め戻しがされなかったり、ベニヤ板などで簡素な施工がなされたことによるものです。


廊下に飛び出した炎はさらに勢力を拡大し続けて、両端に配置されたホールにも延焼しました。

通常、大規模な建物では防火戸が閉鎖することで一定規模以上の延焼が起きないような構造とされていますが、これもじゅうたんとの接触などの不適切な状態が原因で作動しませんでした。


そして、さらに延焼を助長したのが空調設備の不正改造による異常乾燥です。

こちらも本来は、外気を取り入れた上で防塵、加湿して各室に供給する役割を担うはずでした。

ただ、ここでは内気循環を行うように改造・運用されていたために、加湿のプロセスを経ず、極度な乾燥状態が生じていました。


加えて木製の客室扉、パイプダクトスペースの埋め戻し不良、防炎製品とすべきカーテンやじゅうたんの不備など数々の問題により延焼の勢いが留まることはありませんでした。

出典:総務省消防庁より

この結果、火元の9階とあわせて10階のほぼ全域と7階及び屋上の一部、8階から5階までのダクトが焼けることとなりました。

本来、火災が発生した際の防波堤となるべき防火機能が作用しなかったことが、今回の被害拡大の要因の一つです。


消防の対応

本火災は出火から通報までに20分以上を要したことなどにより、消防隊が到着した時にはすでに大規模に延焼が拡大していました。

所管する東京消防庁は必要に応じて応援部隊を増隊させ、最大限の体制となる第4出場で対応しました。


活動を綴った報告書によると、最初に到着した部隊の責任者は現場に向かう道すがら、ホテルの上空が真っ赤に染まっているのを視認しています。

その後、ホテルの西側に到着した際には、9階の少なくとも6室から炎が噴き出ている状況、逃げ遅れて手を振っている宿泊者の姿を目撃しました。


消防隊は多数の逃げ遅れ者を救出するために様々な方面からのアプローチを試みました。

ホースを持ってホテルの階段から直接救助に向かい、背負ったり抱きかかえての救出、ロープを使った上下階への救出、はしご車を利用した地上への救出…。

出典:富士山南東消防本部より

安全かつ迅速な方法を現場ごとに判断して決死の活動が続けられました。


そして救出活動にあたって課題となったのは、出火時にホテルに在館していた者の把握と行方不明者との突合せでした。

このホテルでは当日の宿泊者を統一的に管理する宿泊者名簿がありませんでした。

そこで、客室ごとに宿泊者が署名したカードをもとに避難あるいは救出済みか否かを照合する必要が生じましたが、正確な人数が不明であったり、外国籍の宿泊者が多いために識別が困難だったりといったことが障壁になりました。


こうした活動により延べ救出した人数は68名に上り、救護活動へと引き継がれました。

最終的に計128隊677名の隊員が現場で対応にあたりましたが、消防としての任務は災害後の実態調査にも及びます。


問われる管理責任

本火災ではホテルを運営管理する会社側に様々な落ち度があったために被害が拡大したことが明らかになっています。


ソフト面での不手際として、推定出火時刻の約2分後には客室前に駆け付けたスタッフが、部屋から助けを求める声を聞いて火災を発見したものの、ホテルからの119番通報は同24分後まで行われずに延焼の拡大が続きました。

火災を知ったスタッフが消火器での初期消火を試みたものの失敗し、別の消火器を探したものの見つけられませんでした。


また、別のスタッフは屋内消火栓を操作しようとしましたが不慣れでホースを延長できませんでした。

関連記事:非常時に役立つ設備①~屋内消火栓設備~

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スタッフが周囲の部屋に火災を知らせようとしましたが、大事でなかった際の上層部からの叱責を恐れて大声での周知をためらってしまいました。


また、ハード面の不良としては各種の施工不良(防火区画の不備)、スプリンクラー設備の未設置、自動火災報知設備の不適正改造及び感知器の維持管理不良、空調加湿の不備、防炎製品の未使用、放送設備の故障放置…と枚挙にいとまがありません。

関連記事:非常時に役立つ設備②~自動火災報知設備~

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ソフト面での問題は、管理者層の防火意識の低さと従業員教育の不足に集約されます。

この火災は出火直後に発見されたため、館内に200本以上設置された消火器や屋内消火栓設備を活用すれば、早期に消し止めることが期待できました。

しかし、自衛消防組織の訓練が長らく行われてこなかったために、適切な行動をとることができずに延焼が拡大してしまう結果となりました。


この原因は経営が困窮しているがゆえに人員削減を進め、防災へのリソースを削り続けた管理者層にあります。

開業時は約700名いた従業員が火災当時には130名程度になっていたとみられています。

人手が削減されて給料の遅配などが起こるようになると、従業員の業務量が増えるとともに士気が低下します。

やがて、経営への影響が少ない防火面での整備はないがしろにされ続けてきました。


本件への管理者責任は最高裁まで争われた末に、当時の社長には禁固3年の実刑判決という司法判断が下されました。

判決に至る理由として、多くの宿泊客の生命を預かる立場にありながら、利益追求に走るあまり安全の確保という最も重要で基本的な姿勢が著しく欠juしていたことなどがあげられました。


ここまで5回にわたっての記事で、防火管理の重要性に改めて着目していただけたのではないでしょうか。

時代が移り変わってもこの心構えの重みは何ら変わりありません。

最良の昼寝~パワーナップ~

過去の記事では、夜勤者に特有の睡眠の理想と課題とのギャップを取り上げました。

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今回は、その解決策の一つでもあり、万人に活用できる可能性がある昼寝の方法を解説します。


昼間に短時間だけ眠る「パワーナップ」は、集中力の回復、疲労軽減、判断力の向上など、さまざまなメリットが期待できる方法です。

特にシフト勤務や夜勤が多い方にとっては、睡眠不足を補う大切な手段となりますが、一般のビジネスパーソンや学生にも十分に効果があります。

科学的に推奨される昼寝のポイントと日常生活で取り入れるコツをご紹介します。

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まず、パワーナップ20分以内に設定することが基本です。

これは、人が眠りに入ってから深い睡眠に到達するまでの時間と関係しています。

深い睡眠に入ってしまうと、起きた際に強い眠気やだるさ(睡眠慣性)が残り、逆にパフォーマンスが低下してしまいます。

短時間で起きることで脳はリフレッシュし、軽快に活動へ戻ることができます。


次に、昼寝をとるタイミングです。

一般的には、昼食後14時までの間がもっとも効果的とされています。この時間帯は、生体リズムの関係で自然と眠気が強くなるため、短い睡眠であっても効率良く回復できます。


職場で寝られる環境が整っている方は少ないかもしれませんが、完全に横になる必要はなく、椅子に座ったままでも十分に効果があります

むしろ深く眠り込みにくいため、短時間で起きられるという利点があります。

この時にアイマスクや耳栓を活用して光や音を遮ると、短時間での入眠に効果があります。

 

質を高めるための工夫の一つとして、コーヒーを飲んでから昼寝をするコーヒーナップもおすすめです。

カフェインは摂取してから20〜30分後に作用し始めるため、昼寝から目覚めたタイミングで頭がすっきりし、より高い覚醒効果を得ることができます。


一つ気を付ける点として、夕方以降に昼寝をしてしまうと夜の睡眠に影響するため注意が必要です。

睡眠は「ししおどし」に例えられ、睡眠の圧力が高まった状態で夜を迎えれば質の高い睡眠が摂れますが、午後遅い時間帯に仮眠を摂ってしまうと睡眠圧が解放されて夜間の入眠が難しくなり、睡眠の質も低下します。


パワーナップの継続することで、疲労蓄積の抑制やストレス耐性の向上にもつながります。

特に夜勤や不規則勤務の方は、夜間の長い活動に向けたエネルギー補給として重要な役割を持つため、計画的に取り入れることで日々のコンディションが安定します。

 

昼寝は心身のメンテナンスとして活用できるので、以後のパフォーマンスにも好影響を与えることが期待できます。
忙しい毎日の中で、自分の最高のパフォーマンスを保つための手軽な手段として、ぜひ取り入れてみてください。

 

【資料】窒息消火

火災は燃焼の三要素が揃っていないと継続しません。

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逆に言えば三要素のいずれかを取り除くことで消火することができます。

水をかけることで冷却を図るのが通常の消火活動ですが、一定の条件が整えば酸素供給源を絶つ窒息消火が有効な戦術になります。

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東京消防庁より


まず前提として、燃えている空間に人がいないこと。

酸素は燃焼に必須であると同時に人の生命維持にも欠かせません。

逃げ遅れた人や活動している人がいる場合にはこの消火手段は使えません。

 

逆に放水による消火に対してメリットがあるのが電気室や機械室などです。

放水は消火の面で大きな効果がある一方、延焼を免れた設備に対しても致命的な損害を与えます

特に高価な電気設備や精密機械を扱う施設では、水による被害の方が甚大になる場合があります。


代表的な窒息消火の活用例としては、二酸化炭素消火設備や不活性ガス消火設備があります。

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これらは自動的にガスを放出し、空間内の酸素濃度を短時間で下げます。

二酸化炭素は空気より重く、低い場所に滞留する性質があるため、機械室やケーブルピットなどの閉鎖空間で特に効果的です。

不活性ガス消火では、窒素やアルゴンなどの人体への影響が少ないガスが主に使用されます。


泡による消火も広い意味では窒息消火の一種といえます。

泡によって可燃物表面を覆い、空気との接触を断つことで燃焼を抑えます。

油火災などに有効で、石油タンク火災や自動車火災などの現場で多用されます。


ただし、窒息消火には注意すべき点もあります。前述の通り、酸素が減少した空間は人が生存できない環境になるため、人命安全の確保が絶対条件です。

誤って人が残っている状態でガスが放出された事故も起こっています。

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窒息消火は、限られた空間・設備火災において非常に有効な戦術ですが、使用環境を誤ると人命リスクを伴う危険な方法でもあることへの理解が必要な消火方法です。

 

人前で上手に話す~あがり症対策~

人前で話すのが苦手だ」という悩みを持つ方は少なくありません。

私自身も時々そのような相談を受けることがあります。

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新年に向けて苦手の克服を志す方もいらっしゃるかもしれませんので、ここで少し対策法をご紹介します。

 

 

小学校の校長先生などは朝会で数十人、数百人の視線を(それが子供のものとはいえ)一身に浴びても緊張した素振りを見せないといったイメージではないかと思います。

しかし、もし自分が朝礼台の上に立って同じ立場で話をするとなると、想像するだけで身震いしてしまう方もいるかもしれません。


いわゆる「あがり症」の克服は一朝一夕には難しいものがあります。

ただ、少しずつでも改善していく方法もありますので、ここでいくつかご紹介します。


まず、一つ目のポイントとして「緊張していることを公言する」という方法があります。

実は、多くの人は緊張している姿を見せてはいけないと思い込みがちですが、実際には聴衆はそこまで話し手の細かな様子を気にしていません。

 

むしろ、「今日は少し緊張していますが、温かく聞いていただけると嬉しいです。」と一言添えるだけで、自分自身のプレッシャーが軽くなり、場の空気もほどよく和らぎます。

隠そうとして強がるよりも、自分で緊張を言語化してしまった方が、かえって落ち着いて話し始めることができます。

 

次に大切なのが「事前に練習をする」ことです。

当たり前のようでいて、多くの方が意外と十分にできていないポイントです。

本番と同じように声を出し、姿勢を整えて通しで練習することで、言葉がスムーズにつながり、内容に自信が生まれます。

 

また、練習の際に本番を想像しすぎて萎縮する必要はありません。

まずは自分のペースで話せる状態を作り、そのうえで時間配分や間の取り方を確認していくと、安定して落ち着いた話し方に近づきます。


三つ目は「場数を踏む」ということです。

これはすぐにできる対策ではありませんが、決定的でもあり最終的には避けて通れません

 

あがり症の方ほど、大勢の前で話す機会を慎重に避けがちですが、経験を重ねることでしか得られない慣れが確実に存在します。

最初は会議での発表など数人の前で話す場から始めても構いませんし、短い挨拶だけでも十分です。繰り返し経験することで体が状況に慣れ、徐々に緊張の波をコントロールできるようになります。


最後に少しユニークでよく知られた「聴衆を野菜に見立てる」という方法があります。

定番のアイデアですが、単なる冗談ではなく心理的な負担を軽くする技術の一つです。

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聴衆を評価者と捉えると緊張が生まれますが、「この前にいるのはジャガイモと人参とブロッコリーだ」と想像すると、自然と肩の力が抜けていきます。

結果的に心理的な負担が軽くなって、失敗したらどうしようという不安が小さくなります。

 

これらの方法はどれも即効性があるものではありませんが、積み重ねによって効果が現れます。

人前に強いという能力は才能ではなく技能に近いものであり、誰でも少しずつ改善していくことができます。

大切なのは、自分に合った方法を見つけ、焦らず取り組み続けることです。

 

収れん火災の危険~冬の日差しが火事を呼ぶ~

収れん火災」という言葉を知っていますか?

この言葉には燃焼の三要素でも少し触れました。

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収れん(収斂)とは一点に集まる様子を指す用語で、ここではレンズ効果によって日光が一点に集中する現象を指しています。

 

通常の日光であれば単独で火災の原因となることはありませんが、何重にも集められると光量も熱量も従来の比ではなくなります。


その効果は虫眼鏡で黒い紙を焼く実験などでご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

子供にも太陽を直接見ないようにという指導は行われますが、虫眼鏡や双眼鏡などのレンズを介して見ることが厳禁とされるのはこのためです。

 

このレンズ効果自体は広く知れ渡っていても、火災の危険を秘めていることはあまり知られていません。

 

実際の事例では、窓際に置いてあった拡大鏡(ルーペ)に日光が差し込み、その下にあった紙類を熱して時間の経過により着火したケースが報告されています。


また、意外にも水の入ったペットボトルの曲面に対して一定の角度から光が差し込むと、レンズと同様に作用することで光の力を強めて火災に至る事例も確認されています。

葉山町より


そして一番の盲点は、この収れん火災に最も気を付けなければならないのが冬場だということです。

感覚的には日差しが強い夏場にこそ熱エネルギーが大きいため危険性が高いように思えます。

これは確かにその通りですが、冬場は夏に比べて太陽の高度が低いことがリスクとなります。

 

光が強く地表に到達する昼間の時間帯、真夏であれば太陽はより真上に近い約78°地点を通過していきます。

一方で冬至の頃にはその高度は約32°まで下がってきます。

 

太陽の高度が低い、すなわち室内の窓から離れた箇所まで光が差し込むことになります。

「日なた」の面積が広ければ広いほど、危険ゾーンも広がっていくことになり、結果として収れん火災発生のリスクが高まることになります。


この悲劇を防ぐのは簡単です。

「収れん火災の危険性を知り、直射日光の当たる場所にレンズとなる物を置かない」

 

この単純な心掛け一つで火災危険を遠ざけることができます。
日頃は意識しないようなところでも、自然の大きな力が人にとっての災いを招くことがあることを理解しておきましょう。

 

【資料】不正の芽を摘む

過去の記事では、本来守るべきとわかっていながらも不正を行ってしまう心理を追求しました。

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そして、不正が繰り返される環境は、いずれ大きな事故を招くことが示唆されています。

今回は人を誤った道へと導く衝動を食い止める方法についての考察です。


不正へと人を動かす心理―これを後押しする機会・動機・正当化の3要素。

このどれか1つでも取り除くことができれば不正を防ぐことが可能だとされています。


まずは機会の喪失

不正を起こす隙を与えないことが第一歩です。

監視カメラやチェック体制の強化、複数人による相互確認、アクセス権限の制限といった仕組みづくりによって、やろうと思えばできるという状況を減らします。

機会そのものがなければ、衝動に駆られても実行に移すことはできません。


続いて動機の消失

不正の背景には、経済的利益・感情的な不満・承認欲求など、何らかの動機が潜んでいます。

待遇改善や相談体制の整備、公正な評価制度の確立といった対策で、不満や欲求を蓄積させない環境をつくることが重要です。

やる必要がない状態に近づけることで、不正の芽を摘むことができます。


そして正当化の排除

多くの不正は、本人の中で「これは仕方がない」「みんなやっている」といった言い訳によって自分を納得させるプロセスを伴います。

こうした心理的な逃げ道を断つためには、組織全体で「小さな不正も許さない」という明確な価値観を共有し、曖昧な基準を排除することが不可欠です。

不正は正当化できないという文化が根付けば、大きな抑止力となります。



3つの要素すべてを取り除くことは難しくても、いずれか1つを確実に封じるだけで不正のハードルは大きく上がります

これは、現場の安全管理や事故防止にも応用できる考え方です。

 

消防・防災のプロが教える地震対策|今すぐ見直すべき室内の危険と非常食の常識

地震対策の完全ガイド|予知不可能な災害から命を守る手段を徹底解説

 

地震は、いつ・どこで起きるか分かりません。
それでも被害を最小限にできる人と、そうでない人がいます。
違いは「事前に何を知っていたか」だけです。

 

「自分だけは大丈夫」「この地域に大きな地震は来ない」――。

かつて多くの人が抱いていたその確信は、近年の相次ぐ震災によって崩れ去りました。

 

 

 

本記事では、過去5回にわたってお伝えしてきた地震対策の核心を1つに統合しました。

膨大なデータが示す日本のリスク、そして消防・防災の視点から導き出した「生き残るための標準」を、圧倒的なボリュームで徹底解説します。

 

この記事を読み終える頃には、あなたの防災意識は「一つ先の標準」へとアップデートされているはずです。

 


1. 地震予知は不可能――データが突きつける「想定外」の正体

まず、こちらの画像をご覧ください。

平成17年(2005年)に政府地震調査研究推進本部が公表した、今後30年以内に大地震が発生する確率の予測地図です。

2005年時点の地震発生確率予測地図
出典:政府地震調査研究推進本部(2005年公表)

このデータでは、東海・近畿・四国の太平洋側が真っ赤に染まり、発災確率が非常に高く設定されています。

一方で、東北や九州、北陸などは比較的低い確率となっていました。

では、この予測から今日に至るまでの20年間に何が起きたか。以下のリストと見比べてみてください。

2006年以降の震度6強以上の地震一覧

東日本大震災(宮城・福島)、熊本地震、そして能登半島地震

強い地震が起こる可能性が低いと予測された地域で、ここ20年の間に日本の歴史に残る大地震が発生しています。

 

ここでお伝えしたいことは「政府の研究が間違っている」と糾弾することではありません。

「専門家が心血を注いで研究しても、地震を予知することは現代の科学では不可能である」という、謙虚に受け止めるべき事実です。

 

10年スパンでの予測も難しいのが現実ですから、1年後、あるいは1週間後に何が起こるかは誰にもわかりません。

これが、私たちが「今すぐ」地震に備えなければならない最大の理由です。

 

【衝撃のデータ】震度6強以上は20年で1.72倍に増加している

さらに注視すべきデータがあります。気象庁の資料をもとに、日本周辺で震度6以上を観測した地震の分布を20年単位で比較したものです。

1984-2004地震分布図
1枚目:昭和59年〜平成16年(1984-2004)
2004-2024地震分布図
2枚目:平成16年〜令和6年(2004-2024)

いずれも20年の期間ですが、件数比では直近20年の方が1.72倍も増加しています。

平均すると1年に2.5回、震度6以上の地震が日本のどこかで起きている計算になります。

 

地球の面積のわずか0.3%しかない日本で、世界の地震の約20%が起きている。私たちはまさに「地震の活動期」のただ中にいるのです。

 


2. インフラ停止を生き抜く「備蓄」のテクニック

大きな地震が起これば、電気・ガス・水道は即座に止まります。

物資の支援(公助)が行き渡るまでには相応の時間が必要です。一般的には3日分の備蓄が推奨されていますが、具体的に何をどれだけ用意すべきでしょうか。

4人家族なら水は36リットル必要

人は1人1日3リットルの水が必要とされます。

「4人家族 × 3日分」なら36リットル。2リットルペットボトルで18本という、かなりのボリュームになります。

これを全て買い置きするのは大変ですが、「アウトドア用のウォータータンク」に日頃から水を入れておくことで、かなりの部分をカバーできます。

 

身近なものが意外な形で役に立つ「フェーズフリー」の思想

高価な非常食を揃えるだけが防災ではありません。

日常使っているものが、被災時には強力な武器になります。

 

  • アウトドア用品: 寝袋やバーナーはそのまま避難生活の主力になります。

 

  • ラップ: 食器に巻けば洗う必要がなくなり、貴重な水を節約できます。重ねればゴーグルや包帯の代わりにもなります。

 

  • ジップロック 食品保存はもちろん、スマホを水から守る、汚物を密閉処理するなど、用途は無限です。

 

  • ガムテープ: 割れた窓の補強、家具の応急修理、副木の固定。布ガムテープは手で切れるため、災害時には必須です。
防災に役立つ身近な日用品

ローリングストックで「負担」を「日常」

シリアル、ナッツ、ドライフルーツ、缶詰、レトルト食品。

これらは日常の食事として消費しながら、常に多めに買い足しておく「ローリングストック」に適しています。

無理なく続けられることが、本当の備えに繋がります。

 


3. 【場所別】家庭内の危険をシミュレーションする

平成7年(1995年)1月17日の発生から30年を迎えます。

 raisethestandard.hatenablog.jp

 

当時、京阪神で「大きな地震が来る」と考えていた人は5%程度しかおらず、「関西地震安全神話が存在していました。

地震に対して防災対策を行っていた家庭は非常に少なく、家具の固定をしていた人は2~3%であったとの調査があります。

その中でM7.3の強い揺れが発生し、多くの方が犠牲となりました。

 

この災害は真冬の早朝(午前5時46分)を襲ったことで、まだ眠りについている方が家具等の下敷きになるケースが多く、家具の転倒防止について改めて注目される契機となっています。

ここからは、地震時のリビングやキッチンなど家庭内での危険についての情報をお伝えします。

 

●居室…リビングなどの居室でまず気を付けることは、出入口を確保することです。

廊下や窓への通路を確保するため、出入口付近には大きな物を置かないようにしましょう。

また、カーペットやこたつなどのくつろぐスペースに、テレビや収納などの大型家具が倒れてこないようなレイアウトも考慮してください。

家電で特に気を付けるべきなのは「電気ストーブ」。

高熱部分に家具が倒れて触れると火災になる恐れがあります。

 

参考:地震と火災①~地震だ!火を消せ?~

 raisethestandard.hatenablog.jp

 

東京くらし防災より

 

●キッチン…電子レンジや炊飯器などの調理家電は、重量がある上に動きやすく危険です。

ガスコンロで火を使って調理していた場合でも、震度5程度の地震が発生するとガスメーター自動的にガス供給を遮断します。

火元の周りに布巾やキッチンペーパーなどの燃えやすい物を置かないようにしておきましょう。

他にも刃物、食器など、家庭の中で危険要因が多い場所なので、揺れた時にはどのような危険があるのかシミュレーションしてみてください。

 

●風呂・トイレ…大きな物が少ないため比較的安全だと考えられがちな浴室やトイレ。

水場のためか、火災時に逃げ込むケースも見られます。

ここでの危険は、無防備な状態で鏡などの割れた破片によってケガをすること。そして、密室に閉じ込められることです。

特に外開きのドアの場合には、ドアの外側を塞がれた場合に脱出ができなくなり、途端に命の危機に直面します。

地震時以外でも、古いドアではドアノブの作動不良で閉じ込められることがあります。)

入り口周囲に大きな物を置かないことや、連絡手段を確保するなどの対策を講じましょう。

 

参考:【資料】家具の転倒防止

 raisethestandard.hatenablog.jp

 


4. 外出先で被災した時の生存戦略

 

外出時に大きな地震に遭遇したら、どんな行動をとりますか?

以前、「グラっときたら身の安全」と紹介しましたが、これは屋外でも同じです。

地震直後は「落ちること」「転ぶこと」に気を付けて、「落ちてくるもの」「倒れてくるもの」から身を守りましょう。

 

特に気を付けるポイントは「高さがあって厚みがないもの」です。

例えば、電柱・ブロック塀・自動販売機などは倒壊危険が高いので、速やかに距離を取るべきです。


駅や商業施設などの人が多い場所では、倒壊よりもむしろパニックによる群衆雪崩の方が恐ろしい現象と言えます。

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出口を求めて階段に殺到するなどの危険が想定されるので、冷静な行動を。

集団心理により、根拠のない伝聞でむしろ危険な行動を取ってしまう事例も数多く記録されています。

 

現代のデジタル発の情報も同様で、SNSは速達性の高い貴重な情報源として活用できますが、通常なら信じないような誤った情報が広まってしまうケースが後を絶ちません。

近年の震災でも「動物園からライオンが逃げた」や「ダムが決壊した」といった誤った情報が大きく取り上げられ、拡散されました。

 

続いて安全と考えられる場所をご紹介します。

前提として新しい建物の安全性は相対的に高いと言えます。

 

建物の耐震基準は、これまでに何度か見直されてきました。

特に1981年以前のいわゆる「旧耐震」では「震度5程度の地震で大きな損傷を受けないこと」が基準であり、阪神淡路大震災で多くの建物が全半壊しました(過去資料参照)。

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1981年以降の「新耐震」はさらに厳格な基準で適用されています。

 

不特定多数の方が利用する官公庁、公立学校や病院などの公的機関は、古い建物でも耐震診断と必要に応じた耐震補強がされているので安全性は高いです。

意外な場所でガソリンスタンドは危険物を取扱う施設として通常の建物より厳しい基準が適用されているため、倒壊危険は少ないと考えられています。

とっさの判断の参考としてください。

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最後にエレベーターについて。

地震時(火災時も)は動いていてもエレベーター使用は厳禁です。

安全装置が設置済みであれば、地震を感知すると最寄り階で停止してドアが開きます。

停止しなかった場合には近い階からすべての停止階ボタンを押すとともに、インターホンでの連絡を試みましょう。

 

東日本大震災では、震度5程度の揺れだった関東なども含めて20都道県で257件の閉じ込め事故が起きました。2018年(平成30年)大阪府北部地震では6万台以上のエレベーターが一時停止したことがわかっています。

三菱電機ビルソリューションズ(株)より

ただし、閉じ込められた方はすべて救助され、犠牲者は発生していません。

被災時には各製造管理会社も全力で救助体制を整える仕組みがありますので、慌てず騒がずに救出を待ちましょう。

 


5. 家族との安否確認――通信が途絶した時の最終手段

 

「外出先で大きな地震に襲われたものの、幸い自宅の近所だったので無事に帰ることができた。でも家族は職場と学校からまだ帰ってきていない。無事を確認するためにはどうしたら・・・」

震災時に想定されるシチュエーションの一つです。

 

過去の例を見ても、固定電話や携帯電話は停電や大規模な通信規制により十分に利用できなくなると考えた方がよいでしょう。

指一本でつながることができる社会が機能しなくなったとき、どうするべきかを解説します。

 

早速、非常時の連絡手段として考えられる方法を挙げていきます。
最も信頼できる手段として公的機関が力を入れて周知しているのは「災害用伝言ダイヤル(171)」。

メッセージの登録・再生ができる伝言サービスで、NTT東日本及び西日本が無料で提供しています。

毎月1日と15日は体験利用ができるので、試してみるのがおすすめです。

NTTグループより

街中で見かける機会が減っている公衆電話

災害時の非常電話としての機能も持っています。

停電時にも稼働し、通信規制の中でも優先的につながるとされています。

 

特に子どもや若い方、「これまでにあまり存在を意識していなかった」という方は、近所の設置場所や使い方を確認しておくとよいでしょう。


電話や通信は被災者同士でのやり取りよりも、被災していない地域に住む親戚や知人を介した方が上手くつながる場合があります。

タイミング悪く連絡を受けられない時にも、メッセンジャーがいると安心です。

 

自宅から避難する場合の伝言にはアナログな方法も考慮すべきです。

日頃から玄関ドアや冷蔵庫の決まった場所にホワイトボードなどでメモを残す習慣があれば、いざという時にも必要な物事を伝えられるかもしれません。

ガムテープを付箋の代わりにすれば耐久性の高いメモになりますが、防犯面を考えると部外者から見える場所での利用は避けるべきです。

 

一時集合場所など居場所が特定できていても、敷地が広く人であふれて合流できないことも考えられます。

共有できる目印がない場合は地図アプリでの位置情報共有を試す価値があります。

電話回線が途絶していても通信回線がつながれば、少ない通信量で正確な情報を伝えられます。

 

いずれにしても、安否を伝えるためには事前の意思共有がカギを握ります。

 

①いざという時、どんな手段で連絡を取るのか

②避難する場合はどこに集合するのか

 

少なくともこの2点は普段の話し合いで決めておく必要があります。

災害より先手を打って、ぜひ対策の相談を。

 


まとめ:地震に先手を打つ「一つ先の標準」

地震の発生を止めること、発生の日時を予測することは誰にもできません。

しかし、その被害を最小限に抑えることは、あなたの準備で決まります。

 

予知はできない、という前提に立ち、過ごす時間が長い場所から一つずつ対策を講じていきましょう。

 

いま、自宅にストックされているもので、どれだけ生活していくことができるのか。

今日、寝る前に枕元にスリッパを置くことから始めてみませんか。

その小さな一歩が、未来を少しよい方に変える一つ先の標準になります。

 

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